仲程秀之さん
靴磨き師
[自己紹介]
2017年4月から、沖縄ではおそらく初となる店舗をもたない出張靴磨き専門サービスをスタート。革靴を販売する仕事に長く携わっていたなかで出会った「靴磨き」という文化に魅せられ独立し、現在に至る。
個人宅や企業などへの出張靴磨きや県内各所で行われるイベントでの出店、靴の磨き方講座や自主企画のマルシェを行うなど、靴磨きというニッチなカルチャーを沖縄で少しでも広めるべく、日々活動中。
「靴がキレイになると人は笑顔になる」
普段から履いている靴や、ここぞという時の特別な靴を、キレイにお手入れさせて頂きます。
革靴をキレイに蘇らせることでその人の一日を明るく照らす。そんなおせっかいをさせて頂く仕事です。
◆仲程さんのInstagram https://instagram.com/hideyuki_nakahodo
intervie
Q学校はどんな場所でしたか?
中学までは、苦痛ではなかったけど、楽しいという場所でもなかった。高校は楽しいといえば楽しかったかな。仲のいい友だちがいたし、楽しいこともあったから。中学までは地元だったけど、高校からは地元から少し離れたから、新しい出会いがあってそれが刺激になったんです。中学までと違って、周りに勉強できる奴が多かったから「自分はたいしたことない」と気づくことができて、勉強することは捨てたんです。それで好きだった絵に集中することにしたんです。授業をサボったりするようにもなって、自分で自分の好きなように過ごすことができました。先生の名前は誰一人覚えてないくらい、先生との関わりはなかったです。自分にとってはどうでもいい記憶は消していく人間なんですけど、学校はどうでもいいカテゴリーに入っていたんでしょうね。
Q中高生の頃、目標にしている大人いましたか?
漫画やアニメから自分の大部分が成り立ってますね。そこから色々学んでいるし、色々考えるきっかけに今でもなっています。
Q中高生の頃、不満や悩みがありましたか?
親は割と自分の自由にさせてくれる人でしたね。自分がやりたいことを歪められたり否定されたりしたことはなかったはずです。押し付けもなかったです。
友だちはもちろんいましたが、えんえんと一人で楽しめる子どもでした。心理的安全性を確保できる友だちがいつもいましたが、そうした固定の友だち以外とは接触はなかったです。今でも付き合いはあっていつでもあの頃に戻れるっていう間柄です。
Q今の自分と中高生の頃の自分で大きく変わったことはありますか?
ベースのキャラは変わってないです。「ああ、意外と世界は広かったな」というような変化があります。視野が広がったというか…。絵の世界が見つかるまでは普通にサラリーマンして終わるみたいな諦めの気持ちがありました。平凡な家庭だったせいもあって。けど、今は違います。
Qなぜこの仕事を選びましたか?
靴の販売員をやっていた頃に、お店の販促計画の一環として「靴磨き」を思い付いてやってみたんです。最初はただのサービスとしてのアイディアだったんですが、意外なほどお客様に喜んでもらえたんです。この仕事の“可能性”を感じました。誰もやってなかったですしね。修理をメインにやっていて靴も磨くという人はいたけど…。靴のリペアは必要な機械の設備投資も、ちゃんとした修理ができるまでの修行期間も必要だけど、磨くことは経験もあったから腕一本で始められました。
Q自分が中高生の時に今の仕事をしていると想像していましたか?
まったくしてなかったですね。何なら一生普通のサラリーマンで終わるかもって思ってました。もっと前には絵を描くことを仕事にしたかったですけどね。結果夢敗れて、今って感じなんです。漫画、アニメ、似顔絵、なんでもやりましたね。基礎的なスケッチやデッサンも学びました。ほぼほぼ独学でしたけど。始めたのは小学生の頃からで、中学、高校と続けてましたよ。その時は本気でやっていましたけど、今思えば本気ではなかったです。「俺、いけんじゃね」って、勘違いしてたふうなとこがありましたね。「上手いね」って、やたらほめられるし。自分より絵が上手い奴が、たまたま自分の周りにいなかっただけなのに…。自分の中には「飯が食えないとプロじゃない。食えないならやめちまえ」っていうのがありました。実際、絵の世界の先輩からも「絵で食えないならしがみつかない方がいい」って言われたこともあります。
小学生の頃はシンプルに好きで描いてました。でも今は、趣味としてもいっさい絵は描いてないです。描きたいというモチベーションはまったくないです。自分が作品を生み出すことより、もっと上手い人が生み出した作品を味わう方が圧倒的に満足できるからです。画角を決めるノウハウとか、絵を描くのに必要なことを人に伝えられる知識や技術はありますし、それは、今も役立ってますけどね。たとえば写真を撮るときとか。
Q仕事を始める上で不安はなかったですか?
靴磨き一本で仕事をしている人は沖縄にはいないから、食べていけるか不安はなくはなかったですよ。ただ、ぶっつけ本番で始めたわけではなく、起業する前に、テスト的に靴磨きをやってみて、お客さんの反応を見て、「これならいける」とう感触を得てはいました。だから不安は大きいものではなかったです。でも実際始めたらどえらい大変でしたけどね。
Qこの仕事で大変なことは何ですか?
たとえば、お客さんを探すこと。お金を払って靴を磨いてほしいと思っている人はそもそも少ないんです。多くの人は、靴をきちんと磨くことについて必要性を感じてないわけなので、当然、靴を磨いてもらおうという発想がないわけです。だからお客さんになってくれる人はもともと少ないんですよ。仕事を始めてみて、想像していた数よりも実際には少ないことにあらためて気づいて、「あ、やべぇ」って…。
Q仕事につくためにどんな準備が必要ですか?
金融機関が主催している創業スクールでの学習。前職の有給消化中に実践練習&SNSやWebの構築。あとは覚悟です。
Q仕事につくための準備としての覚悟について聞かせてください。
覚悟があれば、壁にぶつかっても乗り越えられる。後から覚悟がつく場合もありますけどね。始めてみたら覚悟に値する仕事だとあらためて実感できるとか…。逆を言うと、自分なりに真剣に仕事をしているんだけど、「これは本気で関わる仕事じゃないな」と感じたら、さっさとやめたほうがいい。「もうこれ以上は無理」と思ったら、他の仕事に移るという意味での覚悟でもあります。
Q仕事でこだわっていること、大事にしてることは?
仕事でこだわっていることや大事にしていることは言えないくらいたくさんありますね。あえて一つ言うとしたら「完璧を追い求めすぎないこと」ですね。学校でよくある「間違ってはならない」という風潮のように、100点でないとダメという論理で仕事はできないんです。ある靴の仕上がりが自分では70点だと思っても、お客さんは100点の喜びをしてくれるかもしれないじゃないですか。決めるのはお客さんなんですよ。自分は自分で100点を目指し続ければいいんです。
Q人生の中で仕事が占める割合は?
100%です。
Q仕事以外で大事にしてること、熱中していることはありますか?
人に期待をしないようにしています。思い通りにいかない想定をしておいて、それに備えておけば、たとえば約束をすっぽかされたとき、がっかりしたり怒ったりしなくて済むんです。反対に思い通りにいけば、「素晴らしい!ミラクルだ!」と喜べるわけです。あとは物事を深掘りすること、自分をよく知る事。たとえば自分の取扱説明書を書いて、それを他者に伝えることをすると生きやすくなると思いますよ。頑張ってもできないことって人それぞれにあるじゃないですか。そのことを他者が前もって知っていたら、少なくとも悪気はないことがわかって、他者の反応も違ってくるはずです。それから、同じ本、同じ漫画を何度も読むことですかね。2回目3回目で見えてくる世界が違ってくるし、なんなら自分で別のストーリーとか続きのストーリーを考えたりもできますから、無限に楽しめて、結果お得です。
Q自分らしく生きるためには何が必要だと思いますか?
「自分らしく」が、いまだにわからない。自分の“らしさ”は他者が決める気もする。
※このガイドブックは公益社団法人金秀青少年育成財団の助成を受けて制作されました。